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脊椎動物,とくに哺乳類の大脳半球の全表面をおおっている灰白質(神経細胞の密集部)の層をいい,ヒトでは厚さ1.5~4mm,表面積2200cm2に及び,部位的に前頭葉,頭頂葉,後頭葉,側頭葉などに区別される。大脳皮質は,中枢神経系のなかでも最も高度な役割をもつところとされているが,その構造-機能についての知識は必ずしも豊富ではない。大脳皮質には,下等な脊椎動物からすでに存在している部分と,高等になって初めて出現する部分とがあり,前者を系統発生的に古い皮質,後者を新しい皮質(新皮質)という。また個体発生的にみた場合,発生初期にできる部分と,発生が進んでからできる部分とがあり,前者と後者とは古い皮質と新しい皮質とにほぼ対応する。
系統発生的にみると,両生類では嗅覚(きゆうかく)系の機能に関連した古い皮質のみであり,爬虫類で初めて新皮質が現れ,この新皮質の発達は霊長類とくにヒトで最高のレベルに達する。大脳皮質の表面は多くの溝(脳溝)により脳回に分けられている。ヒトでは胎生の初期では大脳半球には脳溝はなく表面は滑らかである。胎生の3~5ヵ月にかけて中心溝,外側溝,鳥距溝,頭頂後頭溝などの脳溝が現れるが,大脳の発育は出生後も長期間継続し,およそ7歳で大人の脳と外見上同じになるといわれている。
大脳皮質の構造は系統発生的に古い部分と新しい部分で差異がみられ,また新皮質領域の間でも部位的差があるが,すべての哺乳類でみられる新皮質の構造の一般原則は下記に示すように似ている。すなわち,皮質は表層の第Ⅰ層から第Ⅵ層までの6層に区分される(図1)。
第Ⅰ層(分子層または表在層) 脳軟膜のすぐ下にあるこの層は,繊維成分は多いが細胞の数は少なく,神経膠(こう)細胞のほかはカハール細胞と呼ばれる小型の水平細胞が散在しているのが特徴である。第Ⅱ層(外顆粒層) 小型の円形,星形,三角形の細胞が密集している。第Ⅲ層(外錐体細胞層) 幅の広い層で,中型のいわゆる錐体細胞が主体をなし,その深部には大型のものがある。皮質領域により錐体細胞の数やその大きさ,その配列のようす(散在性のものや放射状に並ぶもの)にかなり変異のある層である。錐体細胞は,他の層と同様に,その樹状突起の一部が細胞の尖端から表面に向かっており(尖端樹状突起),他の一部は底および側面から数本の突起が出て,その付近に終わっている(基底樹状突起)。なお,これらの錐体細胞の多くは連合繊維や交連繊維の起始細胞である。第Ⅳ層(内顆粒層) 外顆粒層同様,小型の細胞が密集している。その細胞の多くはその軸索が皮質内で終わる(非錐体細胞)。その突起の分布状態から垂直型,水平型,局部型などに分類される。この層も変異が大きく,運動野などでは発達が悪いが,その反面,感覚野とくに視覚野では非常に幅が広く,いくつかの亜層に分けられている。そして,この層は多数の求心繊維とくに視床核からの投射を受け,それらの終末分枝と考えられる水平方向に走る有髄繊維が密集して線条をなしている(外バイヤルジェ線条)。第Ⅴ層(神経細胞層または内錐体細胞層) 第Ⅲ層と似た構造を示し,比較的少数で大型の錐体細胞が存在し,ここでも深層ほど細胞は大きくなる。大型の錐体細胞は運動野などのこの層の深部にみられる(例,ベッツ細胞)。この層の細胞は上丘,下丘,赤核,橋,脊髄,網様体など皮質下の諸核に投射繊維を出す。また一部に皮質皮質間繊維の起始細胞もみられる。水平方向に走る有髄繊維は深部で数を増し,これは内バイヤルジェ線条と呼ばれる。第Ⅵ層(多形細胞層) 皮質の最深層で,三角形,円形,紡錘形など大小さまざまの形の細胞が不規則に散在する。領域によって,この層は細胞の数や形の変異が大きい部分である。皮質視床投射の起始細胞が多数を占める。
以上は新皮質(等皮質または同種皮質)と呼ばれる大脳皮質の基本的構造であるが,そのほかに,発生のいかなる時期にも定型的6層形成を示さない古い皮質(不等皮質または異種皮質)と呼ばれる領域がある。嗅脳(広義)と呼ばれる領域は後者に属する。
大脳皮質は部位的構造に差異があり,20世紀初頭にキャンベルA.W.Cambell,ブロードマンK.Brodmann,フォークトC.& O.Vogt,エコノモC.von EconomoとコスキナスG.N.Koskinasらによって,ヒトや動物の皮質の構築学的研究がなされた。そのなかで,ニッスル標本を用いて細胞構造学的に皮質を47~52の区域に分類したブロードマンの脳地図が有名である(図2)。皮質全体,層ごとの細胞の大きさや形,分布とその数(密集度),層の幅,垂直方向における細胞の分布状態や特別な形の細胞の存在など,これらの相違を基礎にして分類したものである。これらの境界の多くが必ずしも脳溝と一致していないことや,この形態上の区分が皮質の機能局在と密接な関係にあることは注目に値する。すなわち,4野は運動野,3,1,2野は体性感覚野,17,18,19野は視覚野,41,42野は聴覚野という具合である。また,同一機能域内にも上肢域,下肢域,顔面域,特定周波数分析域,特定視野復現域,というふうに皮質内に部位局在が存在し,細分化されている(図3)。このほかに,高次の機能に関連すると考えられる皮質連合野が存在する。
一般に,連合野は前連合野(前頭前野)と後連合野(頭頂連合野,後頭前野,側頭連合野)とに大別される。霊長類を用いた生理・心理学的実験研究により,機能的には前頭前野(前頭連合野)は遅延反応や弁別学習,行動のプログラミング,短期記憶など時間的な情報処理に関与するのに対して,頭頂連合野は,主として5野が体性知覚性の身体各部の定位に,7野が視覚性空間の定位にというように空間的要素の情報処理に密接に関係している。また,後頭前野(後頭連合野)と側頭連合野の後および下部(20,21,37野)は,視覚性認知に,さらに後者の上部および前部はそれぞれ聴覚性および嗅覚性の認知機能に関連している。このように連合野内にもはっきりした機能局在が存在する。
ヒトになると,大脳皮質の発達がさらに進み,言語領域といわれる分野もこの連合野内に存在する(前頭前野内に運動性の言語領域-44野,頭頂連合野内に感覚性言語領域-39,40野など)。左右の大脳半球間にも明らかな機能分化が認められている。ヒトの同側の大脳皮質間の結合としては,昔から,離れた皮質間を結ぶものとして,上縦束,前頭後頭束,鉤状束,帯状束,下縦束などが知られており,このほか,隣接した脳回を結ぶ弓状繊維と呼ばれる短い繊維がある。さらに,大脳皮質と視床核との間には,部位局在的な相互連絡がある。また近年,大脳皮質内の〈柱状構造〉の存在とその機能についての研究が進んでおり,皮質表面から垂直方向にむかう直径400~600μmほどの柱状範囲内にある神経細胞が一定の機能単位をもって活動していることを示す証拠も得られ,現在,そのベールがはがされつつある。
→機能局在
執筆者:川村 光毅
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(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 覚醒は脳幹網様体に存在する上行性網様体賦活系によって維持されている。大脳皮質には触覚や痛覚,聴覚など種々の感覚刺激が伝えられるが,その一部は途中で脳幹網様体にも伝えられ,上行性網様体賦活系を活動させる。次いで,ここから発せられる神経インパルスが視床を通じ大脳皮質全域に投射されてこれを興奮させるが,これが覚醒と呼ばれる現象である。…
…ヒトの大脳皮質は不規則なしわに覆われて,肉眼的には一様の構造のように見える。しかしブローカP.Brocaによる運動性言語野の発見(1861)以来,場所による機能の違いが明らかになった。…
…脳のうち,終脳,間脳,中脳を大脳とよぶ。しかし,〈大脳〉はしばしば〈脳〉の意味で用いられたり,〈大脳半球〉や〈大脳皮質〉の意味で用いられたりしている。ヒトの脳を外から見た場合,複雑なうねり(大脳回)を伴って見える大きな1対の膨大部が,終脳のうちで大脳半球とよばれる部位である。…
…大脳皮質(新皮質)の中で感覚野と運動野のいずれにも属さない領野をいい,高次の精神機能に関係すると考えられている。フレクシヒPaul E.Flechsig(1847‐1929)が髄鞘発生の研究から見いだした区分である。…
※「大脳皮質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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